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木漏れ日

その人は,毎朝,自宅のドアを開けるとまず,空を仰いですこし微笑む。

 

 

いつもは,ミニシアターで上映される映画をみることが多いのですが,大きな映画館に久しぶりに行きました。やはりいいものです,大きな映画館。音響も大画面も,と改めて感じました。ヴィム・ヴェンダース監督の,ドイツ・日本合作の映画「PERFECT  DAYS」を見に行ったのでした。これから観る方もいらっしゃるでしょうし,多くは書きませんが。極端に無口な公共トイレの清掃員の話です。この主演の俳優のセリフはほとんどありません。話す必要がないからです。そのような静かな映画ですが,最後はスクリーンがにじんでみえませんでした。

 

 

映画の冒頭のシーン。その人は,朝,出かけるときに,自宅のドアを開けるとまず,空を仰いですこし微笑みます。このシーンをみて,そういうことなのだ,大切にするべきは,大切にしたいのは,そういうことなのだ,とじんわりと強く思いました。その人は,来る日も来る日もそうしています。トイレの清掃の仕事の休憩中もそうしています。木漏れ日を眺めます。その時その表情には,いつも笑みがあふれています。

 

 

12月でいったん終了した「アクセプタンス&コミットメント・セラピー」のプログラムの中で,「生きていくうえでの価値」についてのセッションが何回かありました。何年経ても,とてもハードルの高いパートです。おそらくみなさまにおかれましても,同様であると思います。そのセッションの初めに,「幸せに生活したいのは誰もみな望むところではある。

しかし,じぶんの人生を幸せにするのが果たして何であるかを見定めんとすることには,誰もがみな五里霧中の状態である。」という,哲学者セネカのことばを紹介しています。生きる価値,目標,というと,少し大層で,どこか煌びやかなものであるべきなのか,と考えます。一方,生きていくうえで大切にしたいこと,どのように生きていきたいか,ということは,決してそのようなことばかりではないということを,この映画をみて感じます。

 

 

これは全くのひとりごとでして,スルーして頂いて一向に構いませんが,PERFECT  DAYSの主人公の前職は,VIVANTのベキだったのではないか,と想像しながら映画をみるのも一つの見方ではないかと。

 

 

豊かに生きるとは。おそらく,それをすでに手にしていたとしても,気づいていないということもあるのだろう。幸福は,とらえ方で簡単にそのかたちがかわっていくものだ。一日は再びは来ない一日で,その積み重ねで人生はできている。映画を見終わった後,そんなことも思いつつ,すこし歩いてみようと,夜の空気,空の様子,夜の気配をかみしめて帰ったのでした。

 

 

朝,家を出るとき,どちらかというと下の方を見がちです。否,考え事などしていたり,慌てていたりで,何もみていないのかもしれません。あれから,朝,自宅のドアを開けたらまず,空を仰いでみることにしています。                

K.M.

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